9 この本、おもしろかった!~わたしの一冊~
点字図書館を利用される皆さんがつなぐコーナーです。前号の中村さんから、高嵜正次さんへバトンが渡されました。それでは高嵜さん、お願いします。
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今までに、読んだ本では時実利彦の「脳の話」、上前淳一郎の「洞爺丸はなぜ沈んだか」、本川達雄の「ゾウの時間ネズミの時間」の三冊が印象に残っている。子供時代は田舎の子供としては本を読んだ方だろう。大人になってからは岩波などの新書類、私の趣味であるオーディオ関係の雑誌が中心で小説は、ほとんど読まなかった。ところが退職後に視力が段々下がり、墨字の本が読めなくなった。現在は、サピエに登録し、デイジー図書をダウンロードして楽しんでいる。近頃は小説、特に警察小説が多くなった。
帚木蓬生を知ったのは、2006年頃、「臓器農場」であった。インターネットで検索したら通谷でメンタルクリニックを開業しておられることが分かった。開業医と作家の二足のわらじで多才ぶりを発揮されている。横山秀夫などの警察小説が一段落したところで、「天に星地に花」を読んだ。舞台が久留米藩で諸に筑後弁である。柳川出身の私は、親近感と懐かしさで一気に引き込まれた。ほとんどが史実に基づいた内容のようで、二度にわたる百姓一揆とそれらに翻弄された井上村の大庄屋の家族の物語である。表題の「天に星地に花」は、この後に本当は「人に慈愛」と続くのが本来の語句なのである。主人公が子供の頃、久留米藩家老稲次に「この慈愛に農民は入っているのか」と問い、家老に「利発な子ども」と記銘される。この家老とは、医者となった主人公が再会する。一揆の始末の責任を取らされ、不遇な身となり、病床に臥した家老の最後を看取ることになる。赤ひげ先生や「医は仁術」は、今や死語である。医者だけではない、政治家をはじめ、世の人が「人に慈愛」を心に刻めば、もう少しましな世の中になるに違いない。
柳河(現在は柳川)の地名とともに、忘れかけていた方言や食べ物を思い出した。「ばさらか」は、ラーメン屋さんの店名で使われているのを見かけた。「ふなやき」も出てきた。子供の頃に食べた記憶がある。具なしのお好み焼き、あるいは厚焼きクレープみたいで二つ折りにし、その中に黒砂糖蜜を挟んだ素朴なおやつで、コーサ(文字不明)と呼ばれていた大きな鉄板鍋で焼いていたのを思い出す。感動的な内容とともに私にとって忘れ難い小説となった。
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幼少のころから、様々な本を読んでこられた高嵜さん。「天に星 地に花」における「人に慈愛」の箇所の深い考察や、小説の内容からご自身の地元へ思いを馳せるところなど、本当に読書が好きで、1冊の本から様々なものを吸収されている方だと感じました。高嵜さん、多くの図書の紹介もしていただきありがとうございました!
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(担当:室元)