9 この本、おもしろかった!~わたしの一冊~
点字図書館を利用される皆さんのコーナーです。今回は、前号の「ココちゃん」から「あ
る読者」さんへバトンタッチです。
「ある読者」さんの「この本」は、「喜知次」。乙川優三郎の時代小説ですね。
では「ある読者」さん、ちょっとお話聞かせてください。
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乙川優三郎―すごい作家だと思う。
佐伯泰英とか鳥羽亮とかも読むけど、登場する武士はきれいに描かれるでしょ。
藤沢周平もそう、武士とはこういうもの―という美しさがある。
でも乙川さんの描く武士は、ちょっと切り口が違ったね。
武士っていったって、切った張ったばかりじゃないんだよね。藩政の改革とか派閥抗争と
かの中で、当時の藩の人間は相当な苦労をしたんだね。
武士の苦悩というのかな。カッコいいばかりじゃない、何かこう人間臭さみたいなのが伝
わってきてね。
いや、ほんとうに大変だったと思うんよ… 僕なんか逃げ出そうごとある(笑)
こんな時代に生まれんで良かったあ~って、ほんとに思ったよ。
喜知次って男の人の名前みたいだけど、これ魚の名前でね、目の大きな頬っぺたの赤い魚
らしい。訳あって主人公の家に貰われてきた女の子が、くるりとした目に赤い頬っぺたをし
てたから、主人公が喜知次ってあだ名をつけたんよ。自分の妹になった、この女の子にね。
それで、主人公と、この血のつながらない妹との淡い関係も描かれてるんだけど、この喜
知次がまた、なんとも哀れでね。最後の最後までこの哀れの描き方がねえ…。
大分弁だと「むげねぇー!」って感じ(笑) ※むげねえ(かわいそう)
武士の世界を描いてはいるけど、これが「喜知次」というタイトルだということも、読ん
でみればなるほどと思うよ。
可哀想で暗くなるんだけど、心に刺さったというか、とにかく感銘を受けた本だったよ。
だから、このあと続けて数冊、乙川さんを読んだけどね。
時代小説だけど、この人の作品は現代に通じるようなところもあるんじゃないかなあ。
とにかく、まずはこれ、一回読んでみてごらん。
「喜知次」―今の僕のイチオシよ。
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「ある読者」さんありがとうございました!「喜知次」って女性だったんですね。恥ずか
しながら私、お江戸で活躍する粋でいなせな若者あたりをイメージしていました・・・。まさか、
こんなに深いお話だったとは―。私が見過ごしている感動、まだまだたくさんありそうです。
聴かせてください、その感動!次号のバトン、お渡しします! (担当:大久保)