今を駆ける~障害福祉の世界に生きる人たち~
切り絵作家 小菅 績憲(こすげ のりかず)
縁とは不思議なもので、最初に舞い込んできた切り絵教室の依頼は障害者福祉会館での講座でした。一言で障害といってもさまざまで、接し方やコミュニケーションのとり方、その他ノウハウなど、当時の私には全くわかりませんでした。当然手話など出来るわけもなく、仕事を探している時に降って湧いた話。どんな仕事でも良かったことを白状します。
それでもかつて海外で生活して言葉の壁を経験し、コミュニケーションの難しさは人並みにわかっていたつもりです。結局立場は変わっても「人間対人間」であることは同じで、どれだけ相手の懐に飛び込めるかだと思います。
何も先入観がなかったのが幸いしたのか、福祉会館での切り絵教室は受講生の皆さんや職員の方々の協力もあって、今年で10年目を迎えました。
話は前後しますが、6年前にロサンゼルスで初の海外個展を開催した折、体験を含めたワークショップも行いました。それも通訳などを通さずに出来たのも、福祉会館での教室を通してコミュニケーションを学んだ自信があったからです。かつて言葉の壁で悩んだその地での個展は、その意味も含めて里帰り展となりました。
切り絵という表現はさまざまな壁を乗り越えるコミュニケーションであることが、教室を通しての大きな発見でした。
切り絵教室では「教える」ことよりも「共に学ぶ」ことを念頭に置きながらいつも楽しく皆でやっています。
私にとってこの教室は、私個人の作品をつくることと同様に、いつも新しい発見があり、常に初心に帰りかつての自分を振り返らせてくれる大切な現場です。
小菅 績憲(こすげ・のりかず)
切り絵工房「かみきりむし」主宰
1968年東京都(とうきょうと)墨田区(すみだく)生まれ
1993年 アメリカ カリフォルニア州 CHAFFEY COLLEGE 写真学科卒業
2000年 全国切り絵コンクール審査員特別賞受賞。ほか公募展での入賞・入選多数
2001年千葉県(ちばけん)市川市(いちかわし)で個展開催
2002年 北九州市に移住。現在に至る。
カルチャーセンターや市民センターなどで「切り絵教室」講師を務める。