点字図書館を利用される皆さんがつなぐコーナーです。今回は、前号の小山さんから吉松政春さんへバトンタッチです。吉松さん、お薦めの本についてお話聞かせてください。
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今村 翔吾 「塞王の楯」
今年の1月に発表された第166回直木賞は二つの作品でした。以前芥川賞だったか直木賞だったかの選考委員の一人が、「二作品が受賞する時は、とてもいい作品が二つあって悩んだというより、絶対これだという作品がない時です。」なんて辛口なコメントをしていました。
しかし、今回の二つは結構おもしろい。私としては、以前から好きだった米澤穂信「黒牢城」に期待していました。しかし、読んでみると圧倒的に今村翔吾の「塞王の楯」がいい!登場人物が魅力的です。残念ながら「黒牢城」は主人公の一人である荒木村重の人間性に共感できません。これは作品に問題があるのではなく、歴史上の人物である荒木村重が悪い。
その点「塞王の盾」の匡介がいいですね。幼い頃、落城によって家族を喪った石工の彼。彼は「絶対に破られない石垣」を作れば、世から戦を無くせると考えている。戦で天外孤独になった彼を助けてくれたのは石工の頭・飛田源斎。石の性質を見抜く匡介の才能を知りすぐに自分の跡取りに指名する。
一方、敵役の鉄砲職人の彦九郎も時には憎くなるが魅力的な人物です。癖があるけど飛田組の玲次もいいですね。
中学の国語の時間に「矛盾」という故事成語を知りました。どんなものでも突き破る最強の矛とどんなものでも防ぐ最強の盾。その両者の評価が正しいならどちらが強いのか。この小説では「最強の楯」×「至高の矛」である石垣職人「穴太衆」と鉄砲職人「国友衆」の宿命の対決を描いています。
サピエのデイジーでは15時間とちょっと長いですが、前半のいろいろな出来事が後半の関ヶ原の戦を前にした近江の国・大津城での激闘を盛り上げます。合間に匡介のほのかなロマンスにほのぼのとした気持ちになります。
ウクライナでの戦火が広がる今、戦争とは何か、平和とは何かを考えさせてくれます。戦争で勝ち取る平和などないのです。
あまりうまく紹介できませんが、それでも少しでも興味を持たれた方があれば、ぜひ読んでみてください。
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吉松さんありがとうございました。受賞作を読み比べての紹介で、どちらも興味がわいてきたのではないでしょうか。みなさんも2タイトル一緒にリクエストいただき、自身の好みはどちらか等、感想をお聞かせいただけると嬉しいです。当たり前に本を読める幸せを感じながら、世界の平和を願っています。
(担当:橋本)