裏表(うらおもて)紙(し)

「肩(かた)に来(き)て人(ひと)懐かし(なつかし)や赤蜻蛉(あかとんぼ)　夏目(なつめ)漱石(そうせき)」

　干し柿(ほしがき)が吊るさ(つるさ)れた縁側(えんがわ)に、Tシャツにジーパン姿(すがた)の少年(しょうねん)が腰かけ(こしかけ)ています。

　辺り(あたり)にはとんぼが飛交い(とびかい)、その中(なか)の一(いち)匹(ひき)が少年(しょうねん)の肩(かた)に止まっ(とまっ)ています。

　少年(しょうねん)は肩先(かたさき)のとんぼに目(め)をやりながら、静か(しずか)に微笑ん(ほほえん)でいます。

　肩(かた)に赤とんぼ(あかとんぼ)が止まっ(とまっ)た。まるで懐かしい(なつかしい)人(ひと)にでも会っ(あっ)たかのようにジッと翅（はね）を休め(やすめ)ているよ――「会い(あい)に来(き)たよ」とでも言い(いい)たげな赤とんぼ(あかとんぼ)、誰(だれ)の魂(たましい)を乗せ(のせ)てきたのでしょうね。

　そういえば、お盆(おぼん)も近く(ちかく)なったある日(ひ)、立ち寄っ(たちよっ)た実家(じっか)の門(もん)の扉(とびら)を開ける(あける)や、体(からだ)当たり(あたり)してきた蝉(せみ)がいました。

　悪戯(あくぎ)好き(すき)だった祖父(そふ)が、にっと笑っ(わらっ)た気(き)がしました。 

（裏表(うらおもて)紙(し)　イラストと文(ぶん)　職員(しょくいん)Ａ．Ｏ）